ライター斎藤博之の仕事

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斎藤博之は、祭りや民俗芸能・食文化・温泉文化・地域の社会史・地域づくりについて執筆しています。
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深浦の正月料理〜「セイリング」の海彦山彦

 年の暮れに、「深浦の食べ物屋 セイリング」から、おせち料理が届いた。少し前に、この店のおばあさんに、深浦の年中行事のおりの郷土料理について、あれこれ教えていただいたので、贈ってくれたのであろう。


*この文章は、『毎日新聞』青森県版に「斎藤博之の発見あおもり 189話」(2009年1月6日)として掲載したものです。

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| 斎藤 博之 | [食の文化]郷土料理(正月料理) | 18:38 | trackbacks(0) | comments(0) |
「けんちん」と「けの汁」

年度末から年度始めにかけて、執筆と取材が立てこみ、このウェブログの更新をサボっていました。「正月と小正月の郷土料理」について説明しようとしていたので、その続きから再開します。


 少し前の記事(「深浦の正月料理」)で、深浦の「けんちん」に触れた。もともとは湯葉を用いた普茶料理が起こりとはいえ、この国の「けんちん」は豆腐の類(たぐ)いと何がしかの野菜を使うということ以外に共通点が見つからないほど多様である。

 ちなみに、広辞苑には「【巻繊】禅僧が中国から伝えた普茶料理の一。(1)黒大豆のもやしをごま油で炒(い)り、湯葉で巻いて煮びたしにしたもの。(2)大根・牛蒡(ごぼう)・人参・椎茸(しいたけ)などを繊切(せんぎり)にして油で炒り、くずした豆腐を加え湯葉などで巻き、油で揚げたもの。(3)「けんちんじる」の略」とあり、その「けんちんじる」は「【巻繊汁】くずした豆腐と野菜を油で炒(いた)めたものを実としたすまし汁」と説明されている。

 ここに「すまし汁」と記されているが、じっさいには醤油仕立ての地域もあり、味噌仕立ての場所もある。醤油が庶民の口に入るのは江戸という都市でも江戸時代も半ばになってからで、まして地方では明治以降というところも多い。それを考えれば、醤油ではなく、味噌で調味する地域があっても不思議ではない。

 たとえば野菜にしても、何を使うという決まりはない。地域ごとの産物を入れて、風土に合った料理になった、ということであろう。


この記事は、『毎日新聞 青森県版』に掲載した文章に加筆したものです。


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| 斎藤 博之 | [食の文化]郷土料理(正月料理) | 21:52 | trackbacks(0) | comments(0) |
けの汁

 「けの汁」について、いま少し説明を加えておく。

 この食べ物は、津軽では、津軽だけの郷土料理だと思われている。しかし、南部でも「けの汁」を食べる。「けの汁」は、青森県全域の郷土料理なのだ。

 冬に雪の積もるこの地域では、さまざまな保存食が作られる。根菜、山菜・茸、豆。「けの汁」は、この保存食をふんだんに使った、ハレの日の食べ物である。

 大根や人参・牛蒡などの根菜は、冷たい室や雪の下に蓄えられてきた。こうしておくと、野菜は凍るまいとして自ら糖度を高めていく。これは保存のための知恵であるばかりでなく、根菜をもっとも美味く食べる方法でもある。住宅のつくりが現代化されると冬に野菜を取っておくことが難しくなってきたが、近年また見直されるようになった。

 春に山で摘んだワラビやゼンマイは干し、蕗は塩漬けにしてとっておく。干したワラビやゼンマイは、「けの汁」の味を左右するといっても過言ではない。晴れた日に地べたに茣蓙を広げて、ここに山菜を並べ、ただひたすら干す。幾日も幾日も、広げては干し、仕舞い込んでは翌る日もまた干す。ゆっくりと陽を浴びて、滋味深い食べ物になる。

 秋に採れた茸も天日に干すか、塩漬けにする。「けの汁」には、一般的には干し椎茸か塩漬けの「さもだし」を使うのが普通だ。

 豆をよく食べるのも、この地域の特徴だろう。鞘から外して、これも天日に干す。かつては豆腐は自分の家で作るところも多かった。油揚げ・焼き豆腐・津軽の「凍み豆腐」に南部の「寒干し豆腐」など、豆腐の類は「けの汁」に必ず入る。津軽も南部も、江戸時代から大豆の産地だった。このほか、大豆や花豆・小豆など、「けの汁」に何の豆が入るのか、地域ごとに違うということは、前回述べた。

 こういった食材を細かに刻んだ具沢山の味噌汁が、「けの汁」である。ことに正月や小正月に欠かせない料理で、大鍋に仕込む。

 だしは昆布で、焼き干しを加える家もある。根菜は小さな乱切りにし、水に戻した山菜も細かに刻む。これに油揚げや焼き豆腐・凍み豆腐を、同じ大きさに切って加える。そして豆。たとえば弘前のあたりでは、青豆を摺って入れるところが多い。

 味噌汁というよりは煮物に近いのではないかと思われるくらいに、具の量が多い。すべての食材の味が溶け合って、深い旨みとこくがある。じつに手間隙のかかる料理なので、ハレの日の食べ物にふさわしい。大鍋にこしらえた正月や小正月の「けの汁」は、寒い季節に客をもてなし振舞う、暖かなご馳走である。


この記事は、『毎日新聞 青森県版』に掲載した文章に加筆したものです。


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| 斎藤 博之 | [食の文化]郷土料理(正月料理) | 22:01 | trackbacks(0) | comments(1) |
船霊さまと鯨汁〜鯨を食べる文化

 「船霊(ふなだま)さま」とは船に宿る神のことであるが、これを祀る行事のことをも、祀る日のことをも、また「船霊さま」と呼ぶ。船を持つ漁師が、正月11日、銘々の船で船霊さまを拝み、一年の豊漁と漁の安全とを祈願する。

 十年ばかり前、六ヶ所村の泊で、船霊さまの取材をしたことがある。

 泊の漁師たちは二箇所のお宮の何れかに寄り、それから銘々に港につないだ自分の船へ向かう。船はすでに、神の依り代である柳の木を立て、大漁旗を掲げてあった。漁師は自分の船の神棚にお神酒を上げ、船霊さまを拝む。それからお神酒を船と海にも注ぎ、さらに拝む。

 一人の漁師が、家へ来い、とわたしを誘った。お神酒を手に下げた漁師のあとをついていく。漁師の家には、大きな神棚があった。家に上がると、漁師は先ずこの神棚にお神酒を上げ、また拝む。漁は天候に左右されるし、海が荒れると命を落とすこともあるから、漁師は誰もが信心深い。

 台所では、食事の用意が始まった。きょうは船霊さまだから、特別なご馳走を拵える。この家では、「けんちん」と「鯨汁」が欠かせないと言う。「けんちん」は前もって仕込んでおくらしく、すでに薪ストーブの上に大鍋が掛けてあった。主婦は鯨汁の鯨を切っている。

 この家の鯨汁は、鯨のベーコンを使う。鯨の脂でベーコンを炒め、ささがきにした人参と牛蒡を加えてさらに炒める。大根などの野菜を小さく切って加え、水を入れて煮込む。すべての野菜に火が通ったら、味噌を溶き、豆腐や葱を入れる。

 「けんちん」と「鯨汁」は、神棚に饌えて拝んでから、食べる。神棚から下ろしたお神酒で乾杯し、家族の誰もが一年の大漁と安全を願って手を合わせていた。


この記事は、『毎日新聞 青森県版』に掲載した文章に加筆修正したものです。


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| 斎藤 博之 | [食の文化]郷土料理(正月料理) | 21:27 | trackbacks(0) | comments(0) |


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