ライター斎藤博之の仕事

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森とともに暮らす(2)日本有数の焼畑地帯

 日本列島の焼畑については、九州や中国・四国それに中部地方で行なわれていた慣行が知られているものの、東北地方で焼畑が盛んに行なわれていたことはあまり知られていない。

 山口弥一郎という学者がいた。もともと地理学の人だが、柳田國男の指導で民俗を調べるようになり、東北をフィールドとして、さまざまな著述を遺した。そのなかに、東北の焼畑に付いての調査がある。昭和十年代に調べたもので、そのころは焼畑がまだ普通に行なわれていた。

 その調査の成果が、「東北の焼畑慣行」という書物や「東北地方の焼畑」という論文に纏められ、著作集の第三巻に収められている。これによれば、福島県の南会津や、鳥海山麓など山形県全域、秋田県の森吉から青森県の目屋にかけて、青森県と岩手県に跨る南部糠部地方などが、とくに焼畑の盛んな地域である。山形では、美味しい蕪は焼畑で採れる、と言われていたほどだ。温海蕪などの伝統野菜は、焼畑で作られていたのである。

 ことに、小麦や稗・粟・大豆・小豆・蕎麦など、雑穀や豆類を主食としていた、岩手県から青森県にかけての糠部地方は、焼畑面積のもっとも多い地帯であった。青森県三戸郡の名久井(南部町の旧名川町)・島守(八戸市南郷区)・猿辺(三戸町)、岩手県九戸郡の軽米などである。

 その面積をみると、
・名久井 四六七町歩
・島守  一四一町歩
・猿辺  三一三町歩
・軽米  四〇〇町歩
となっている。耕地に占める焼畑の割合も、島守で一割、名久井や軽米で二割五分を超え、猿辺に至っては四割近い。集落のなかで焼畑にかかわる戸数も、島守で三割、軽米で五割に近く、名久井で七割、猿辺で九割を超える。いずれの数字も、東北の焼畑地帯は言うに及ばず、列島の各地をも圧倒している。

 ぜんたいに東北地方では焼畑を「かの」と呼んでいるところが多いが、西目屋や糠部では「あらきおこし」と呼ぶ。「あらきおこし」(荒墾起こし)は、ほんらいは、「荒墾」(あらき)を起こして畑を拓くということで、火を付けて焼くという意味は含んでいない。じっさい、火をつけない「あらきおこし」が、南部地方ぜんたいで行なわれていたようである。

 火を付けるにせよ付けないにせよ、「あらきおこし」で拓いた畑は、三年から長くても五年で、耕作をやめる。松や栗などの森に戻していくのである。

 南米や東南アジアではプランテーションを拡大する焼畑で熱帯雨林が失われているために、焼畑を環境破壊と結び付けてイメージする読者も多いだろうが、伝統的な焼畑は森とともに暮らす智恵であった。


* この文章は、『毎日新聞』青森県版に掲載したものに、若干の修正を加えたものです。

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(追記)


 わたしが八戸市南郷区(旧南郷村)で「山の楽校」のみなさんとともに焼畑を行なっている目的のひとつは、地域の伝統を活かした循環型の農業を進めることによって、森の保全を図ることである。ところが、東南アジアや中南米で熱帯雨林を焼き払う農場開発が行なわれているために、焼畑には環境破壊であり二酸化炭素を増大させているというイメージが流布されている。しかし、これは焼畑ではない。ここで、若干の説明をしておこう。

 伝統的な焼畑は、日本列島でも、東南アジアでも、森を伐採して焼き払うことで畑地を作るものの、数年ののちには森に還す営みだ。焼き払っても、じつは樹木は生きている。火の熱は表土から数十センチまでしか及ばず、もっと深くまで張った根から、畑を終えたのちに芽吹くからである。むしろ、外から入り込む雑草の種や根が焼けてしまうために、長く生態系が維持される。じっさい、焼畑を行なう人びとは、森についての深い知識をもっている。彼らは森から山菜や茸・木の実の恵みを受け、材木を伐り炭を焼いて活かしてきた。病や傷を癒す薬も、この森の草木から得てきた。

 インドネシアやアマゾンでプランテーションを切り拓くために森を焼いているのは、焼畑ではない。森に戻すことがないからである。近世の日本でも、森に戻る速度を越えて、山を焼いて畑を作るという行為が行なわれていたことがある。これも、開発であって焼畑ではない。

 焼畑は森とともに生きる智恵であって、やがて森に還し、年々に移って行くわけだから、背後に広大な森がある。たとえば、5年のあいだ畑にし、森の戻して、25年後に再び焼畑にする、というサイクルであれば、ある年に焼く面積の少なくとも30倍の大きさの森がなければならない。焼畑は森を育てることと表裏一体なのだ。

| 斎藤 博之 | [地域の社会史]焼畑 | 22:27 | trackbacks(0) | comments(0) |
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