ライター斎藤博之の仕事

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森とともに暮らす(3)糠部の「荒墾起こし」(あらきおこし)

 山口弥一郎が昭和十年代に東北の焼畑を調べたところ、岩手県から青森県にかけての糠部地方が焼畑面積のもっとも多い地帯であった。だが、この地域で盛んに焼畑が行なわれていたことは、記憶のかなたに忘れ去られている。

 弥一郎は、じっさいに、青森県三戸郡名久井村(旧名川町、現在の南部町)の水澤という集落を訪れている。焼畑を、この地域では、「荒墾起こし」(あらきおこし)と呼ぶ。松や栗の林の伐採した跡の「荒墾(あらき)を起こす」。南向きで日当たりが良く、土地の肥えている土地が択ばれると言う。これを5年借りて、焼畑にするのだ。

 冬から春先にかけて伐採を行ない、3月から4月にかけて大木を運び出しておく。このあと薪にする雑木をとって、木の葉や小枝を平らにならす。5月、八十八夜のあと、天気の続いた日を択んで、午後の3時ごろ、上のほうから火をつける。

 上のほうから火をつけるのは、下からだと火の廻りが速くて危険なうえ、表面だけが焼けて用を成さないからだ。また、日が傾きかけてから始めるのは、乾燥して燃えやすくなるのと、火が良く見えて焼き終わったことがわかりやすいという理由による。

 火を入れるときは人を頼んで、周りの林に燃え移らぬよう用心する。各々さぶろ・もった・のこ・なたなどの道具を持って、警戒にあたる。夜も数人がこの「あらきば」に野宿する。隅々に穴を掘って、寝ずに番をしたらしい。火入れに立ち会う人びとには夕飯を出し、一杯飲ませる。弥一郎はこの話しを聴いて、「火入れ祝ひでも行ふ如くも感じられた」と書いている。野宿の番には、この当時で10円から20円ていどの謝礼と、夜食のおにぎりが出た。

 焼いたあくる日から2〜3日かけて、「あらきふみ」を行なう。焼いた土地を起こすのだ。これがほんらいの「あらきおこし」の意味で、焼畑にあたる適当な言葉がないので、その意味にも用いるようになったのであろう。

 「あらきふみ」は男女が一組になって、男が「あらき鋤」で起こしたあとを、女が「もった」で「土地打ち」をして畝(うね)をこしらえていく。「あらき鋤」も「もった」も山の斜面で用いるのに適した特別な道具で、しかし「あらきおこし」は相当に体力を消耗した。それを、この地域では、「ゆいっこ」で行なう。

 「ゆいっこ」とは「結い」(ゆい)、むらびとが協働で作業し、お互いに助け合う仕組みだ。今回この人が「ゆいっこ」を「借り」れば、「ゆいっこ」を貸してくれたそれぞれの人が必要とするとき、この人も「ゆいっこ」を「返」さなければならない。そのようにして順繰りに助け・助けられ、お互いを支えあうのである。焼畑は、このような「むら」の助け合いのうえに、成り立っていた。


* この文章は、『毎日新聞』青森県版に「斎藤博之の発見あおもり」として連載したものです。

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(追記)


 山口弥一郎が降り立った東北本線の名久井駅から、なだらかの丘をいくつか越えれば、南郷である。弥一郎の時代に焼畑地帯であった名久井(南部町の旧名川町)と島守・市野沢(八戸市の旧南郷村)は、隣り合った場所にある。

 名久井では、かつて焼畑だった場所は、多くが果樹園に変わっていた。農業基本法の出来たころ、人手は農村から都市へ向かい、高度成長が始まった。経済効率を求める世の中に、「ゆいっこ」を用いる焼畑は成り立たなくなっていた。焼畑の森は、あるところでは杉林に、別のところでは果樹園になる。風景も、時代とともに遷り変わる。


 弥一郎の聴き取った「あらきおこし」の方法が、標準的な糠部の焼畑なのかと言えば、そうではないようである。福田(南部町の旧福地村)や島守でわたしが聴き取った内容と、微妙に異なっている。おなじ「あらきおこし」でも、地域によって差があるのは、その土地にあったやり方があるからだろう。

 いずれにせよ、南部糠部の「あらきおこし」が、会津や出羽・越後の「かの」と大きく異なるのは、火を入れる季節である。「あらきおこし」は春に焼き、「かの」は夏に火を付ける。ことし、南郷で夏に火入れをしてみてわかったのだが、梅雨の明けるのが遅くなると、糠部では作物の収穫前に霜がきてしまうかもしれない。そう思って梅雨の晴れ間に火を入れても、草木が乾かないから、土地の表面しか焼けないのである。

| 斎藤 博之 | [地域の社会史]焼畑 | 17:33 | trackbacks(0) | comments(0) |
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