ライター斎藤博之の仕事

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森とともに暮らす(6)焼畑と蕎麦

 南部糠部の焼畑は、耕さず、肥料も要らず、草取りの回数も少ない。それは、大豆と麦を輪作の中に組み入れているからであった。大豆の根に付く菌が土壌の有機物を分解し、麦の根が畑を耕す。それは、木村秋則さんの自然農法によく似ていた。

 大豆と麦を作りながら雑穀を播き、5年目に蕎麦を収穫すれば畑は森に還す。最後に蕎麦を作って森に戻すのが、糠部の焼畑の流儀である。いく年か作物を収穫した一番最後に作るのは蕎麦だから、蕎麦しか穫れない痩せた土地だ、という言い方もする。

 ところが、蕎麦じたいは、けっして痩せた土地を好むのではない。もともと、焼畑に択ぶ土地は、森に育まれた豊かな土地で、日当たりの良いところだった。蕎麦はどんな土地にも育つと思っている人も多いが、ヤマセが強すぎて陽も当たらなければ、蕎麦は稔らない。

 どんな作物も、肥えた土地のほうが、よく育つに決まっている。しかし蕎麦は土地が痩せていても育ち、逆に肥料を与えすぎても良い蕎麦にはならない。少し苛酷な環境のほうが、美味い食べ物ができるのは、その作物が生きようと根をしっかり張るからである。ちょうど焼畑の最後の年の辺りが、南部らしい蕎麦には頃合いというわけだ。

 「南部らしい」と書いたのには、理由がある。その土地によって作られてきた蕎麦の品種は違い、どんな蕎麦が好まれてきたかも違い、そして最後の年に蕎麦を作るのが焼畑の一般的な方法ではないのである。大豆と麦を取り入れながら、最後に蕎麦を作るというやり方は、糠部の焼畑「荒墾起こし」(あらきおこし)に特有の智恵なのである。

 山口弥一郎は、1941年(昭和16年)に津軽の西目屋村大秋で、焼畑の聴き取りを行なっている。これによると、ここには春に焼く「荒墾起こし」と、夏に焼く「夏焼き」とがあった。このうち「荒墾起こし」は男の仕事で、初めに粟、二年目は大豆か小豆、三年目は小豆か大豆と交互に付け、四年か五年で「そらす」というから、わたしが南部の福地で聴き取ったものに似ている。一方の「夏焼き」は女の仕事で、土用のころに焼き、まずは蕎麦を播く。東北の他の地域の焼畑に目をやると、初めに蕎麦を作ることのほうが多い。

 秋田の仙北や福島の会津では、山口弥一郎の調査では、土用に焼くのが普通だった。この地方では、焼畑を「かの」と呼ぶ。「かの焼き」をすれば、まず蕎麦を播く。「かの蕎麦は味がよい」と言うそうだ。二年目に粟、三年目に大豆、四年目に小豆を作って「あらす」。蕎麦は初めの、小豆が最後の作物になっている。南部と同じく蕎麦どころで焼畑地帯だが、いつ焼畑に蕎麦を作るかがまるで逆になっている。


* この文章は、『毎日新聞』青森県版の連載に、若干の修正を加えたものです。

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(追記)


 八戸市南郷区(旧南郷村)の世増(よまさり)地区で50年ぶりに復活させた焼畑では、事業の開始が春ではなく夏だったと言うこともあって、今年は「かの」の方法で蕎麦を作付している。来春から地域の伝統である「荒墾起こし」を始めるに先立ち、この土地の焼畑がなぜ「かの」ではなく「荒墾起こし」なのかを調べてみよう、という意図をもっている。

 おそらく「かの」は、南部糠部の風土に合わない。「かの」で蕎麦を播いても、あれこれと不都合が出てくるだろうと予想される。どんな問題が生ずるのかを整理することで、「荒墾起こし」の特徴を浮き彫りにしようというものだ。

 不都合は早速現れた。梅雨の明けるのが遅くなれば、火入れの条件が整わない。蕎麦を播くのが遅くなれば、収穫の時期に霜の被害に遭う。それを避けようとすれば、草木が乾いておらず、火が回らない。積んでおいた枝や枯草に無理矢理に火を入れても、表土だけが焼けることになる。

 そこへ蕎麦を播いたわけだが、今度は土が肥えすぎているという問題に直面した。土が肥え、蕎麦は良く育つ。よく育ちすぎて、いつまでも青々としている。茎が赤くならないと、収穫は出来ない。霜を心配しながら、収穫の日を決めることになった。

 この蕎麦の出来はどういうものか、その結果は収穫した蕎麦を自然に乾燥させたあと、11月にわかるだろう。


* 南郷の焼畑の蕎麦刈りは、10月23日(金曜日)の午前10時から行なうことになりました(雨天延期)。

| 斎藤 博之 | [地域の社会史]焼畑 | 10:45 | trackbacks(0) | comments(0) |
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