ライター斎藤博之の仕事

このウェブログは、フリーランス・ルポライター斎藤博之が地域限定の新聞・雑誌または非売品の媒体などに執筆した文章を、広くお読みいただくために、公開することを目的にしています。
斎藤博之は、祭りや民俗芸能・食文化・温泉文化・地域の社会史・地域づくりについて執筆しています。
<< 青森県の円空仏(1) 仏を刻む聖 | main | 青森県の円空仏(3)辺境へ/辺境から >>
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

sequel
| スポンサードリンク | - | | - | - |
青森県の円空仏(2)遊行する山伏

 寛文6(1666)年、円空は津軽に来た。このとき33歳、仏像を刻み始めて僅かに数年。はじめて遠国を巡る旅に、なぜ北を目指したのかは詳らかでない。

 もともと円空は美濃と近江に跨る伊吹山の修験であった。ようするに山伏である。伊吹山では薬師念仏が行われていたことから、ここで修行する山伏は本草の知識をも得ていたのではないかと考える人もいる。円空は蝦夷ヶ島に渡って彫った仏像の一つに、「江州伊吹山平等岩僧」と刻んだ。自分は近江の伊吹山にある平等岩で修行した僧である、と名乗っているわけだ。

 しかし、このように権威付けて見たところで、遊行行脚する聖の立場は弱い。幕府は寛文5(1665)年の「諸宗寺院法度」「諸社禰宜神主法度」で、僧侶・山伏・願人・行人が町屋で祈祷することを禁じている。すでに、これ以前の慶長18(1613)年には「修験道法度」が修験を組織化し、定住を進めていた。里山伏と言う。山伏が諸国を廻って祈祷に歩く時代ではなくなっていたのである。

 聖である円空は、ただちに弘前から追い出されることになる。『弘前藩庁日記』(国日記)の寛文6年正月29日(1666年3月4日)の条に、「円空ト申旅僧壱人長町ニ罷有候処ニ、御国ニ指置申間敷由被仰出候ニ付而其段申渡候所、今廿六日ニ罷出、青森へ罷越、松前へ参由」とある。国に差し置きまじき理由とは、遊行する僧だということによる。

 のちに円空が法相宗法隆寺や天台宗園城寺から血脈相承(けちみゃくそうじょう)を受けるのは、寺に属さなければ発願を成就するのは難しかったということであろう。

 この時代の弘前領は、新田の開発を始め、岩木川の改修に手をつけた時期に当る。谷地と呼ばれる湿地が水田に変えられていった。ほんらいは葦や菅の生い茂る場所である。表高をはるかに超える石高が得られつつあった。米の生産に傾いていくことには、相当の無理があった。

 新田を切り拓こうとする藩にとって、庶民の救済を祈願する遊行僧は、なんとも目障りな存在であったのではなかろうか。

 それにしても円空の旅は、北を目指したところといい、庶民に眼差しを向けていたところといい、祈りや本草のわざを伴っていたところといい、百年後に菅江真澄が歩くことになる道に先駆けていたことは、驚かされずにはおられまい。

sequel

 津軽平野を見下ろす丘陵は、一面の林檎畑だ。いまでこそどこまでも林檎の樹が続いているが、円空が歩いた時代に林檎はなかった。鬱蒼たる森であったろう。その森のなかに、沖館神明宮はあった。

 この社(やしろ)の創建は文亀3年(1503年)というから、五百年の歴史を持つことになる。円空仏を納める観音堂が、この境内にある。津軽三十三観音の二十九番札所。お堂の前の石灯籠に、宝暦9年(1753年)の年号が刻まれている。

 明治になって神仏が分離される以前ここは真言密教の寺で、宮司の先祖は修験であったらしい。円空がここへ立ち寄ったのか、あとから円空仏がここへ遷されたのかはわからないが、円空が修験を頼って旅をしたことは、ありうることである。

 弘前の町を去った円空は、青森を経て松前へ渡った。北海道で丸一年の修行を経て、翌る年、寛文7(1667)年に再び津軽へ帰ってきた。記録に残る確かなことはこれだけで、円空の足取りは残された仏像から知るより術(すべ)はない。

 円空が彫った仏は、津軽に11躯のこっている。前の記事に青森県に遺る円空仏の一覧を示したので繰り返しになるが、このうち津軽の円空仏をもう一度見ておくことにする。

●義経寺 三厩村
   観音菩薩坐像(青森県重宝)
●福昌寺 平舘村
   観音菩薩坐像
●正法院 蓬田村
   観音菩薩坐像(青森県重宝)
●浄満寺 青森市油川
   釈迦如来坐像(青森市指定有形文化財)
●個人所蔵 小泊村
   木造男神像(青森県重宝)
●延寿院 鯵ヶ沢町
   菩薩坐像=寺伝薬師如来像(青森県重宝)
●元光寺 青森市浪岡
   もとは梵珠山山頂の釈迦堂にあり
   観音菩薩坐像(青森県重宝)
●西光院 青森市浪岡
   観音菩薩坐像(青森県重宝)
●沖館神明宮 平川市沖館
   観音菩薩坐像(青森県重宝)
●弁天堂 田舎館村
   十一面観音像(青森県重宝)
●西福寺 弘前市
   もとは平賀にあり、寄贈を受ける
   十一面観音立像(青森県重宝)
   地蔵菩薩立像

 このうち、弘前や田舎舘の観音は、その作風から、北海道へ渡る以前のものであろうと言われている。ほかの仏像は諸説あって、松前への往路なのか帰路なのか、定かではない。しかし、円空の刻んだ仏は、街道の筋目を表している。

 田舎舘や沖館は、大鰐から津軽平野の東を浪岡に至る乳井街道の近くにある。弘前の二つも、平賀の人が寄進したと言うから、乳井街道の道筋にある。浪岡から現在の青森空港のそばを山越えすれば、油川に至る大豆坂街道だ。辺鄙なところを歩いたようにも見えるが、これは弘前より南から来る人にとっては羽州街道よりも近道だというので歩く人の多い、当時の主要な街道だった。浪岡から油川へは、大釈迦を経て、新城を通る羽州街道もあった。いずれにせよ、ここから松前街道を三厩まで歩き、津軽海峡を渡ったのであろう。

| 斎藤 博之 | [地域の社会史]円空 | 18:12 | trackbacks(0) | comments(1) |
スポンサーサイト
sequel
| スポンサードリンク | - | 18:12 | - | - |
trackback
http://hsaitoh.jugem.jp/trackback/155
comments
管理者の承認待ちコメントです。
| - | 2011/08/12 6:23 PM |










+ CONTENTS of THIS WEBLOG
+ PROFILE of SAITOH
+ OTHER WEBSITE written by SAITOH
+ SAITOH'S DIARY

(1)
斎藤博之のTwitter
斎藤博之のTwitter

    follow me on Twitter

    (2)
    ライター斎藤博之の取材日記
    ライター斎藤博之の取材日記
    (ライター斎藤博之が日々取材で出会った食べ物や祭り・風景を紹介する日記。
     Twitter開設以前に作っていたもので、現在は更新していません)

    + FORUM
    ライター斎藤博之のフォーラム (記事内容に関連した討論や、質問を受け付ける掲示板)
    + MESSAGE FORM
    + COPYRIGHTS
    著作権は、斎藤博之にあります。文章の引用は自由ですが、著作権法の定めるところに従ってください。ウェブ上で引用する際も、出典を明示したうえで、トラックバックするか、著者に連絡してください。当然のことながら、著作権を侵害していると認められるものについては、法的な対抗手段をとることがあります。
    + selected entries
    + recent trackback
    + recent comments
    • 恐山信仰とイタコについてのQ&A
      斎藤 博之 (03/27)
    • 恐山信仰とイタコについてのQ&A
      田中 修 (03/17)
    • 原発の事故による健康被害について〜美味しんぼ 福島の真実
      Botox (12/26)
    • 原発の事故による健康被害について〜美味しんぼ 福島の真実
      高橋靖司 (07/17)
    • 原発の事故による健康被害について〜美味しんぼ 福島の真実
      タコ (06/12)
    • 原発の事故による健康被害について〜美味しんぼ 福島の真実
      KAZU (06/01)
    • 原発の事故による健康被害について〜美味しんぼ 福島の真実
      斎藤 博之 (05/22)
    • 原発の事故による健康被害について〜美味しんぼ 福島の真実
      ana (05/22)
    • 原発の事故による健康被害について〜美味しんぼ 福島の真実
      斎藤 博之 (05/21)
    • 原発の事故による健康被害について〜美味しんぼ 福島の真実
      斎藤 博之 (05/21)
    + archives
    + LINKS

    雁屋哲の美味しんぼ日記
    (雁屋哲さんの公式ホームページです)

    美味しんぼ塾ストーリーブログ
    (『美味しんぼ』全巻のあらすじを検索)

    企画集団ぷりずむ
    (雑誌にラーメン特集などを執筆しました)

    グラフ青森
    (雑誌に民俗芸能・地酒などの連載をしました)

    まるごと青森
    (青森県の観光担当職員たちで作るブログです)

    恐山あれこれ日記
    (恐山菩提寺の院代・南さんの日記です)

    山の楽校「焼き畑日記」
    (八戸市南郷区で焼畑を復活しました)

    トキワ養鶏
    (耕畜連携の循環型農業に取り組んでいます)

    レストラン山崎
    (弘前のスローフードの仲間です)

    洋望荘
    (八戸の自然食・スローライフの宿です)

    仙台ラーメン金太郎
    (コンセプトと食材を担当しました)

    仙台屋
    (食材と地酒を集めました)

    深浦の食べ物屋セーリング
    (深浦の正直な食べ物屋さんです)

    青森県のラーメン・旅の宿と温泉
    (T.KENさんのホームページ)

    あおもりラーメン協会
    (あおもりラーメン協会の公式サイト)

    新井由己の仕事帖
    (地域のおでんやハンバーガーなどについて
     食文化として研究しておられます)

    わ的には 「北の国」のチョット南から
    (青森などを歴史も交えて探訪する
     ぴかりんさんのカナリ楽しいページです)

    大川平の荒馬
    (「大川平の荒馬」のホームページです)

    べんべのけやぐ
    (「大川平の荒馬」のメンバーです)

    じっくり・ゆっくり・2
    (「大川平の荒馬」のひろさんです)

    我、旅の求道者也
    (「大川平の荒馬」で知り合いました)

    下田ゆうじの津軽お祭道中
    (懇意にしている鳥井野獅子踊りの若手後継者、
     下田ゆうじさんが津軽の民俗文化を語る)

    小竹勇生山の瞽女宿
    (津軽三味線と越後瞽女を取材しました)

    津軽の侫武多
    (斎藤の作ったネブタ分布データを共有)

    阿部かなえの二胡のページ
    (北東北初の二胡の教室を開いた方です)

    憩いの森メーリングリスト
    (東北の魅力に触れるメーリングリスト)

    くぼた屋ウェブログ
    (岩手県滝沢村とゲームについての話題)

    土徳の世界
    (映像作家・青原さとしさんの公式サイト)

    藝州かやぶき紀行
    (広島の萱葺き職人を追うドキュメント)

    よたよたあひる's HOMEPAGE
    (ちょっとオタクな友人です)


    にほんブログ村
    このウェブログは、「にほんブログ村」に参加しています。

    + RSS
    + RECOMMEND
    美味しんぼ 108 (ビッグ コミックス)
    美味しんぼ 108 (ビッグ コミックス) (JUGEMレビュー »)
    雁屋 哲,花咲 アキラ
    「美味しんぼ」が、東日本大震災の被災地のうち、八戸(青森県)から石巻(宮城県)までの三陸地方を訪ねた。津波は、あらゆるものを流し去ってしまったけれど、清らかな海を護ろうとしていた重茂(岩手県宮古市)や唐桑(宮城県気仙沼市)には、生き物も還ってきた。陸前高田(岩手県)の醤油屋さんは、市民ファンドの援けも得て、新たな一歩を踏み出そうとしている。まっとうな食べ物を作っていた生産者たちは、どのように復興に取り組もうとしているのか。豊かな自然と、温かな絆をもったこの東北に、ほんとうの幸せがあったのではないか。わたくし斎藤博之が案内します。
    + RECOMMEND
    美味しんぼ 100 (100) (ビッグコミックス)
    美味しんぼ 100 (100) (ビッグコミックス) (JUGEMレビュー »)
    雁屋 哲
    わたくし斎藤博之が案内人として登場する『美味しんぼ』の「日本全県味巡り 青森県編」。三方を海に囲まれ、ブナやヒバの森に抱かれた青森県は、海と山の豊かな恵みを受けているばかりではなく、醗酵・粉食・天日干し・寒干しなど、食べ物を保存し・しかも美味しくいただく知恵を、幾百年の年月をかけて蓄積してきた。また、北前船で伝わった文化と北方の民俗が交叉し、旧い日本の食文化の基層を留めてもいる。
    + RECOMMEND
    日常生活のなかの禅―修行のすすめ
    日常生活のなかの禅―修行のすすめ (JUGEMレビュー »)
    南 直哉
    恐山菩提寺の院代・南直哉師は、曹洞宗大本山永平寺で長く修行され、曹洞宗を代表する論僧である。
    この著作は、「私」という存在の根拠への問いから始まり、他者との関係のなかに「生」を見出し、もう一度自己を再構築するための「禅」を説く。
    大乗仏教の根本思想を、恐山の禅僧が語る。
    + RECOMMEND
    「問い」から始まる仏教―「私」を探る自己との対話
    「問い」から始まる仏教―「私」を探る自己との対話 (JUGEMレビュー »)
    南 直哉
    恐山菩提寺の院代・南直哉師は、曹洞宗大本山永平寺で長く修行され、曹洞宗を代表する論僧である。
    この著作は、「私」という存在の根拠への問いから始まり、他者との関係のなかに「生」を見出し、もう一度自己を再構築するための「禅」を説く。
    大乗仏教の根本思想を、恐山の禅僧が語る。


    + sponsored links