ライター斎藤博之の仕事

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奥大道と平泉(3−1)大星神社の舞楽面

 それでは、奥大道に伝わる中世の舞楽面を、来たから順に見ていこう。
 まずは、青森市の大星神社(妙見堂)の舞楽面である。大星神社は、青森市の荒川のほとりにあって、浪岡から堤ヶ浦に至る街道が、その川沿いを走っている。近世の大豆坂(まめざか)街道に当たるこの通りが、中世の奥大道だった。奥大道は浪岡から北の油川・内真部の湊へ向かう一方、山越えして堤ヶ浦に至る。この道がさらに、七戸から根城へと続き、毛馬内で再び奥大道に合流する。大星神社は、この街道の要の場所にあって、神仏分離の以前は妙見堂と呼ばれていた。この場所を菅江真澄が訪れていることは、このウェブログの民衆に伝わる舞楽(1)に書いた。

大星神社の舞楽面

二の舞(腫面と咲面)

大星神社二の舞腫面 大星神社二の舞咲面

 はじめに「振鉾」(えんぶ)という曲があったはずだが、舞楽のはじめに行なわれるこの儀式の舞には面を用いないので、その舞があったという物理的な証拠はない。「厭舞」のあと、左方が「案摩」(あま)を舞う。「案摩」は、紙に陰陽道の護符を顔のように墨書きした「雑面」(ぞうめん)というものを付けるので、やはり面は残っていない。「反閇」(へんばい)を踏む、まじないの舞である。
 右方が舞う「二の舞」は、「案摩」と番(つがい)になる答舞で、案摩の真似をする滑稽な「もどき」になっている。「二の舞を踏む」という慣用句は、ここから来た。老爺の「咲面」(えみめん)と、老婆の「腫面」(はれめん)の、二人で舞う。天王寺の楽所(がくそ)には「二の舞」は失われて伝わっていない。天王寺から伝わった日本海伝いの民俗芸能では、「二の舞」は「案摩」を真似ても上手く舞えないばかりではなく、爺婆がまぐわり種を播く滑稽な仕草がさらに笑いを呼び、卑猥だが底抜けに明るく、五穀の豊穣を祈願することに繋がっている。奥大道の終点に近いこの妙見堂にも、これに近い「二の舞」があったのではないだろうか?


* このウェブログの地方の舞楽も参照してください。なお、「民衆に伝わる舞楽」を執筆したのち、それぞれの寺社に別の面があることも確認されているので、本稿では面の枚数などを訂正してあります。


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散手と貴徳

大星神社散手 大星神社貴徳

 左方の「散手」(さんじゅ)と、右方の「貴徳」(きとく)は、番舞である。

抜頭と還城楽

大星神社抜頭

 「抜頭」(ばとう)と、「還城楽」(げんじょうらく)は、番舞である。いずれも、左方にも右方にもある曲で、左方と右方では囃子も舞も異なっている。
 このうち、大星神社には「還城楽」が断片しか残っておらず、撮影できなかった。なぜ断片なのかと言えば、壊れやすい構造だからで、額から上と顎が面の本体から独立して動く仕掛けになっていた。これが、「還城楽」の面の旧い様式で、本州の北端にそれが伝わっていたことになる。

行道面?

大星神社行道面

 これまでの調査で「行道面」とか「鼻高面」と呼ばれてきたものは、じつのところ何の面であるか、よくわかっていない。面の色からして、右方の舞に用いられたものであろうと考えられる。

陵王と納曽利

大星神社陵王 大星神社納曾利

 左方の「陵王」(りょうおう)と、右方の「納曽利」(なそり)は、番舞だ。いずれも、「還城楽」と同じく、顎を動かせば眼も動く「動眼吊顎」という仕掛けになっている。顎が面の本体から独立しており、紐でぶら下がっているのだが、さらに顎と眼が紐で繋がっていて、口を開けば眼が動くわけだ。東北の舞楽面は、のちの時代には「動眼吊顎」の仕掛けが失われてしまうのだが、奥大道の北端に旧い仕掛けのはっきりと遺る、雅な面が伝わっていることは、もうひとつの北端である櫛引八幡宮(八戸市)でも確認することになるであろう。


* 大星神社の宝物である舞楽面は、青森県立郷土館が保管していますが、常設展示物ではありませんので、普段は見ることができません。


| 斎藤 博之 | [地域の社会史]奥大道と平泉 | 18:02 | trackbacks(0) | comments(0) |
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