ライター斎藤博之の仕事

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奥大道と平泉(3−3)天台寺の舞楽面

 天台寺は漆で有名な浄法寺(岩手県二戸市)にある寺で、かつて今東光や瀬戸内寂聴が住職を勤めたことで知られている。寺に遺る鰐口に刻まれた年号から、少なくとも14世紀にはすでにあったことがわかる。このような山中になぜ古刹があるのかと言えば、奥大道から遠くない位置に説明を求めることが出来よう。この寺に伝わる中世の舞楽面は10枚、東北の中で最も多い。舞楽を演ずる楽人(がくにん)の集団が、ここにあったと想像しても不思議ではない。

二の舞

天台寺二の舞

 もともと「二の舞」の面は、面というよりは被り物かと思うほど大きく、伎楽の面に近いものを感じるが、天台寺の「二の舞」は、とりわけ大きく、しかも厚い。「腫面」(はれめん)の老婆の表情は柔らかく、「咲面」(えみめん)の老爺も人のよさが滲み出ているようだ。極めて東北的な表情と言えるが、鄙びて稚拙なのではなく、明るく伸びやかだ。

散手と貴徳

天台寺散手 天台寺貴徳

 「散手」(さんじゅ)と「貴徳」(きとく)も、大星神社(妙見堂)や岩木山神社(百沢寺)・櫛引八幡宮などにある面と較べれば、目鼻に少しとぼけたような表情があり、年代を追って東北的な特徴をまとっていくのを眼にすることが出来る。なお、この「貴徳」は口を丸くすぼめているが、鯉の口のようであることから「鯉口」(こいくち)と言う。「貴徳」はひとりで舞う曲だが、「鯉口」の面を付けるときは「番子」(ばんこ)が二人付き従う。「番子」は舞人に鉾(ほこ)を渡す役だが、いまは南都や宮内庁の楽所(がくそ)にはない(かつてはあっただろうということは、たとえば鎌倉の鶴岡八幡宮に、「鯉口」とともに「番子」の面が遺っていることなどからも知ることができる)。はたして天台寺の舞楽に「番子」があったかどうか、気になるところだ。

還城楽

天台寺還城楽

 「還城楽」は頭と顎が面とは独立して動くのが旧い形なのだが、この天台寺の「還城楽」は眉や額が面のなかにあり、少なくとも頭と頬が面と一体であることがわかる。次の項で櫛引八幡宮(八戸市)の舞楽面を紹介するが、旧いタイプの「還城楽」が残っているので、較べてほしい。櫛引八幡宮から天台寺へ、舞楽面の姿が移行していくのがわかるであろう。


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胡飲酒

天台寺胡飲酒

 この面は、見るだけで、どのような舞か想像がつくであろう。左方の「胡飲酒」(こんじゅ)という舞で、ようするに酔って楽しげに舞うという場面を演ずるものだ。大坂の四天王寺楽所には、「胡飲酒」の独特な舞が伝わっている。眼を閉じれば、この雪国の森で「胡飲酒」を舞う朗らかな舞台が、浮かんでくるようだ。

陵王と納曽利

天台寺陵王1 天台寺納曾利1 天台寺陵王2 天台寺納曾利2

 「陵王」と「納曽利」が、天台寺には、それぞれ2つずつある。ようするに二番(ふたつがい)あるのだが、一つ目の番は小さく、二つ目の番は大きい。ひとつは練習用なのか? あるいは新潟や静岡のところどころに稚児の納曽利があるように、ここにも稚児の陵王・納曽利があったのか?民俗芸能の舞楽を観なければ、そのなぞは解けないかもしれない。


* 天台寺の舞楽面は、天台寺境内の宝物館に展示されています(入山料で拝観できます)。


| 斎藤 博之 | [地域の社会史]奥大道と平泉 | 15:08 | trackbacks(0) | comments(0) |
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